うる星やつらファンが交流を深める集会場
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★作成者 もの実高志 @monomitakashi https://twitter.com/monomitakashi
（短編）その手のぬくもりを
あたるが風邪を引いた。
＜ラ ム＞「大丈夫？ダーリン」
と、あたるの額に自分のおでこを当てるラム。
＜ラ ム＞「熱もあるっちゃ。…ダーリン？顔が赤くなってるっちゃ」
＜あたる＞「明るいうちから恥ずかしい真似をっ…はっくしょいっ！」
くしゃみの飛沫がラムに飛んだ。風邪で本当に熱が上がってきたあたるは、翌日から学校を休んだ。
＜メガネ＞「アホは風邪引かんと言うが…迷信も当てにならんなぁ」
あたるが休んだと知って、メガネがぼそっと言った。
＜ラ ム＞「今日、病院に行くって言ってたっちゃ…くしゅんっ！」
＜メガネ＞「…ラムさん、もしかして…風邪ですか？」
一瞬、メガネ達男子の脳裏に“宇宙風邪”の忌まわしい過去が浮かんだ。あの皮膚が“赤緑の縞々”になる宇宙風邪だ。
＜ラ ム＞「…うん、今朝からくしゃみが出るっちゃ…くしゅんっ！」
＜メガネ＞「そ、そうですかぁ、風邪ですかぁ…ラムさん、少しUFOで休んでたらどうですか？」
過去の出来事を思い出して、男子達は揃って「そうそう、そうした方がいいよ」と頷く。
＜ラ ム＞「だっちゃね…何だか熱も出てきたみたいだし、ウチ、早退するっちゃ…くしゃんっ！」
＜男子達＞「お大事に～～」
窓から飛んで行ったラムに手を振り見送ると、男子達はほっと胸を撫で下ろした。
UFOに戻ったラムは熱を測ってみた。
＜ラ ム＞「熱があるっちゃ…風邪薬飲んで寝ようっと…」
薬を飲み、カプセルベッドの中に入る。スリープモードにして夜まで眠る事にした。そして夜になって再度検温してみるラム。
＜ラ ム＞「まだ熱、下がってないっちゃね…くしゃんっ！」
UFO内には、医療用の自己診断メカも置いてある。それで風邪のウィルスが何であるかを診察してみると。
＜ラ ム＞「宇宙風邪じゃないっちゃ…地球タイプの風邪…前にランちゃんが罹ったやつだっちゃ。地球風邪に効く薬って、あったかなぁ…」
ぼーっとした頭で、薬入れを探してみるが、“地球風邪”に効果がありそうなものは無かった。
＜ラ ム＞「地球風邪の対処法…父ちゃんに聞いてみるっちゃ…」
だるい体をおして、モニターに向かうラム。画面に父親が映った。地球風邪を引いたらしい、と言い、その治療法を聞いてみる。
＜ラムの父＞「地球風邪の治療法かいな。うむ…」
少し難しげな顔になる父親。
＜ラ ム＞「ランちゃんも前に罹ったし…だったら治す方法あるはずだっちゃ」
＜ラムの父＞「んむ…ラムが罹っとるのは、また違うかもしれん。とにかく臨床例が無いんや、一度こっちゃ戻って来い」
＜ラ ム＞「うん…でも、ダーリンも風邪引いてるし…放って帰るの心配だっちゃ。ここで治せないのけ？」
＜ラムの父＞「婿殿は地球人や、何も心配いらんやろ。お前が地球風邪に罹っとる方が心配や」
＜ラ ム＞「わかったっちゃ…くしゅんっ！」
そしてラムはあたるに心を残しながらも、とりあえず母星に戻った。
あたるの風邪は意外と長引いた。テンから、ラムも地球風邪に罹ってその治療に星に帰った事を聞いた。
＜あたる＞「オレの風邪がうつったのかな…」
＜テ ン＞「そや、お前の風邪やから、こっちでは治療出来んそうや！ラムちゃん大分苦しそうやったでぇ…どないしてくれるんやっ！」
＜あたる＞「オレに責任がある、って言うのか？えっ、ジャリテン！？」
＜テ ン＞「そうに決まっとるわ！地球でアホは風邪引かんって聞いたけどな、そんだけタチ悪い風邪、っちゅーこっちゃ！わかったか、アホッ！」
あたるが学校を休んで3日目。ようやく熱も下がって体調も落ち着いてきたところだった。
＜あたる＞（ラムが地球風邪に…前のとは違うのか…）
そして翌日から学校に行ったあたるだったが、ラムはまだ戻って来ない。
ラムが前の風邪では無いと聞くと、男子達はほっとした。と同時に、なかなか帰って来ない彼女の身を案じた。
＜面 堂＞「天変地異の前触れか…珍しくアホが風邪を引き、貴様の風邪にラムさんが巻き込まれるとは…諸星っ！どこまでラムさんを苦しめれば気が済むんだ！？一度死ねぃっ！！」
面堂が刀を振り下ろすと、すかさず“真剣白刃取り”で対応するあたる。あまりの言われように面堂に食ってかかった。
＜あたる＞「お前にとやかく言われる筋合いは無いわっ！ラムが勝手に地球風邪に罹っただけじゃっ！」
＜面 堂＞「よくもぬけぬけとーーーっ！貴様には彼女をいたわる気持ちは無いのかーーーっ！？」
そんな罵詈雑言の応酬がしばらく続いた。周りは面堂の言う事がもっともだ、と思いつつも半ば呆れ気味で傍観していた。
そして、1週間が過ぎても、まだラムは戻って来なかった。
＜あたる＞「おい、ジャリテン…ラムの様子はどうなんだ？」
＜テ ン＞「まだ治療中らしいで…ワイにも詳しいことはようわからんけどな…」
ラムの情報は、テンから聞くしかなかった。
1週間経っても帰って来られないほど悪いのか…と思うと、あたるは居ても立ってもいられない気持ちになった。
夜になり、テンは押入れで眠ってしまった。押入れに背を向けて椅子に座り、部屋の明かりも点けず、暗い中で独り物思いに耽るあたる。
＜あたる＞（どうしてんだよ、ラム…もう1週間も経つっていうのに…もしこのまま、帰って来なかったら…）
最後に触れたのは、あの時…自分の額に額を当ててくれ、その後、布団で眠る自分の手を握っていてくれた…あの時。
＜ラ ム＞“ウチが傍にいるから、安心して眠っていいっちゃよ”
＜あたる＞（その言葉を聞いた後、眠っちまったんだな…）
“あの時”の、ラムの手の温もりが、まだこの手の中に残っている。
＜あたる＞（いつも当たり前だとばっか、思ってたのにな…オレの風邪なんかで…もし…）
両の掌を見つめるあたる。ぽたぽたと涙が零れてきた。
涙で濡れた手を、ぐっと握り締める。もし、二度とこの手で、あの手を握る事が出来なくなったら…そう思うと、とめどなく涙が溢れてくる。
＜あたる＞（アイツが一緒に居るようになってから…オレ、何度泣いてんだろうな…）
肩を震わせて、嗚咽する。長い時間、静かに泣きながら、夜は深々と更けていった。
寝不足のまま学校へ行ったあたる。溜息ばかりが後から後から出てくる。その日は1日中、何をする気力も出ず、ぼんやりしたまま放課後を迎えた。
夕刻、家に帰ると、部屋にはまだ誰かが居た匂いも無い。畳にごろりと横になると、漠とした寂しさが部屋に広がる。
そして、夕べの寝不足もあって、あたるはそのままうとうとと眠ってしまった。
＜ラ ム＞（…ダーリン…ダーリン…）
＜あたる＞「…んん…？」
＜ラ ム＞（こんな所で寝てたら…また風邪引くっちゃよ…）
柔らかく温かい、人肌が、頬に触れた。
＜あたる＞「えっ！？」
ガバッ、と起き上がると、そこには…ラムが。
＜ラ ム＞「やっと良くなったっちゃ。長い間留守にしててごめんちゃ、ダーリン。連絡も取れなくて…ちゃっ…」
思わずラムを抱き締めるあたる。
＜あたる＞「…連絡くらい、ちゃんと寄越せよ、バカが…」
少しの間だけ抱擁すると、あたるは懐かしげにラムの両手を取って、しっかりと握り締めた。
＜ラ ム＞「…どうしたっちゃ、ダーリン？」
＜あたる＞「しばらくこのままで…いいだろ、ラム…」
＜ラ ム＞「うん…」
ラムの細い手が温かい。両手でやんわりと包み込むように握り、何度もさする。
たった1週間程居なかっただけなのに、その手の温もりが、とても懐かしい。
この手をずっと離したく無い…あたるはそう思っていた。
余りに恥ずかし過ぎて口には出来ないが、ラムの手を握りながら、そう思っていた。
彼女のその手の温もりが、体と心の芯まで、温めてくれる気がしたからだ。
＜ラ ム＞「ダーリンの手、すごく温かいっちゃ…」
あたるは何も言わず、照れ臭そうにラムの手をさすった。何度も何度も。
その手の温もりを、自分の記憶に擦り込むようにして。
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