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作成者 もの実高志 @monomitakashi https://twitter.com/monomitakashi

(短編)或る青春の一頁

<こけるの友人>(男子)「よー、こける。お前また自主休講かよ、いい気なもんだな。そろそろマジ、単位ヤバくねぇ?」

<こける>      「また頼むって、代返」

<こけるの友人>(男子)「やなこった。お前が“今度おごる”とか“オンナ紹介するから”っての、全然アテになんねーんだからよ」

<こける>      「だから今度こそっ!頼むって~」

<こけるの友人>(男子)「だったらよ、今度マジでっ!妹紹介してくれよっ。だったら聞いてやんねー事もねーけど」

<こける>      「ちっ…またその話かよ。アイツはお前みたいなのはタイプじゃないぜ、言っとくけど」

<こけるの友人>(男子)「ったく…どーしてお前みたいなスチャラカ野郎に、あんな美人の母親と妹がいるんだよ。いいよなぁ~」

<こける>      「んな事知るかっ。とにかく代返頼むわ、そんじゃな~」

とある大学の中庭を足取りも軽く、ひょいひょいと行く男、諸星こける。

天運が彼を助けたのかどうだか知らないが、補欠の補欠で入学を果たした。しかし父親似の性格からか、いつもこんな調子だ。

すると突然、後方から大声で呼び止める女の声。

<こけるの友人>(女子)「ちょっと、コー!」

<こける>      「…何だよ、またお前かよ。それにその“コー”っての、いい加減やめてくんないかな」

<こけるの友人>(女子)「“こける”なんて、ダサい名前を人前で呼べって?“コー”で十分っ!私にそう呼んでもらえるだけでも感謝して欲しいねっ」

<こける>      「で?何の用だよ…」(腰に手を当ててふんぞりかえっちゃって…かわいくねーオンナだな、相変わらず…)

<こけるの友人>(女子)「また自主休講だって?お前何しにここへ来てるんだ?」

<こける>      「…勉強に決まってんだろ…」

<こけるの友人>(女子)「はっ!勉強!?講義のひとつもまともにとらないで、よく言えたもんだっ」

<こける>      「今日は用事っ!そう、用事があって出られんのだっ!そういうお前は今から講義じゃないのか?」

<こけるの友人>(女子)「あいにくと今日の午後は、講師の都合で急に講義が潰れてね。それに私はもう十分、単位は足りてるんだ。誰かさんと違ってね」

<こける>      「そんな事はどーでもよかろーが。それより何の用で呼び止めたか聞いてるんだよ、こっちが」

<こけるの友人>(女子)「ちゃんと講義に出ておけ、でないと留年間違い無しっ!という私からの忠告だっ!」

<こける>      「何で、んな事を指図されにゃならんのだ…そりゃお前は優等生だから、オレみたいなのが許せんのは、わかる。わかるが…」

<こける>      「それとこれとは別じゃっ」

<こけるの友人>(女子)「留年してもいいと?ふーーん、親から学費を出してもらっておいて、か?」

<こける>      「あーもー、うっとーしーわっ!お前の話には付き合いきれんっ!」

<こけるの友人>(女子)「あっ!ちょっと、コー!まだ話は終わってないだろーがっ!」

こける、軽く地面を蹴ると、かなりの距離を跳躍して、着地。そのままひょいひょいと走って、キャンパス中庭から姿を消した。

<こける>      「留年間違い無し、ね…親父はともかく、母さんには色々言われそうだよなぁ…」

とか何とかぶつぶつ言いながらも、街中でナンパを始めた。

<通りすがりの女性> 「やーよっ!」 “バチンッ!”

この辺の行動パターンは父親そっくりである。

<こける>      「今日も収穫無し、か…さて、そろそろ帰るかな…」

今の住まいは安いアパートだ。その手前まで来た所に、誰かが立っていた。

<こける>      「何だ、お前かよ、どした?」

<こけるの友人>(女子)「ホントに留年、するつもりか?」

<こける>      「あー、学費とかの事ね。まぁ、母さんや妹はうるさいだろーけどさ…」

<こけるの友人>(女子)「そういう事じゃなくて、だな…」

<こける>      「それにしても物好きだな。ここまで押しかけて来て、文句言う事でもあるまいし」

<こけるの友人>(女子)「私はその…留年するわけにはいかない理由があって、だな…コーが留年すると、その…」

<こける>      「何だよ?いつもの威勢のいい態度はどうした?らしくない、っつーか、変だぞ」

<こけるの友人>(女子)「その…一緒に卒業…出来なくなるじゃないか…と」

<こける>      「へ?」

<こけるの友人>(女子)「…私がこうまで言って、まだわからないか?つまり…一緒に卒業したい、と…」

<こけるの友人>(女子)「…腰に手を当てた、ファイティング・ポーズをとってばっかの女じゃ、ダメかなぁ…と…」

<こける>      (うっ、案外…いや結構…か、可愛い…)「あ、いや…んな事は、無いけどな…」

<こけるの友人>(女子)「それと…“コー”じゃなくて、やっぱり“こける”って呼ばれる方が、いい…か?」

<こける>      「いや、別に、今まで通りでもかまわんけど…」

<こけるの友人>(女子)「そう、良かった…」

<こける>      (いや、マジ、可愛いんだけど…いつものあの態度と、えらい違いじゃないか…)

<こけるの友人>(女子)「渡したいものがあるから、ちょっと…かがんで、目、閉じてくれる…か?」

<こける>      「ん?ああ…」

肩に手がかかって、唇に柔らかな感触。

<こける>      「と、いう事は…」

<こけるの友人>(女子)「ん、まぁ、そういう事かな…」

<こける>      「う、いや…そこまで辛抱出来るかどーか…」

<こけるの友人>(女子)「むぅっ…辛抱するのっ!そして明日っから私が専属でスパルタ指導するっ!いいか?」

<こける>      「勉強だけ?」

<こけるの友人>(女子)「そうっ!もちろん勉強だけっ!」

<こける>      「それ以外は?」

<こけるの友人>(女子)「きちんと卒業出来たら、の話だっ!」

<こける>      「ああそう…それにまたいつもの態度に戻ってるし…でもさっきのじゃ、あんまり感触が残って無いんだけど」

<こけるの友人>(女子)「…ちょっと甘い顔すれば、こうだ…まったく」

<こける>      「ね、もう一回だけ。誰も見て無いし」

<こけるの友人>(女子)「それじゃあ…1週間、単位1個も落とさなかったら…」

<こける>      「ああ、そう…何でも勉強と結びつけるわけね…」

<こけるの友人>(女子)「そうでもしないと、その頭で私と一緒に卒業は無理だっ!」

<こける>      「さっきまでの、しおらしさは何だったんだ、一体…」

こんな青春のイチページ。 

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